「よい子」が人を殺す この本、最近TVなどで人気の「尾木ママ」尾木直樹教授の2008年の著作。

この頃世間に頻発していた「家庭内殺人」や「無差別殺人」に主に教育的観点から鋭く考察を入れた一冊だ。実は先日、息子の大学での課題図書にいくつか上がっていた中にあったので「どうせならこれにしろ」と購入。課題が終了した時点で私の手元に来たので一気に読んだ。

幸い過去にも私の身の回りで殺人事件に関わるような出来事はなかったが、二人の友人の息子が相次いで登校拒否、ひきこもり、という話に出くわしていたので、同じような年齢の子を持つ親として、いろいろと考えていたことがあり、専門家の解釈に興味を持った。

二人の友人の息子たちは、それぞれに中流以上の家庭で親もしごくまとも、教育的環境になんら問題があるような家庭ではない。子どもたちも素行に問題があるわけではなく、成績も悪くなかった。

それが本当にある日突然、みたいな感じで学校に行けなくなってしまう。

一方の家庭はカミサンも顔見知りで、彼女は小中高とPTA活動に積極的だった。教育熱心かどうかはともかく、子どもに無関心な家庭では決してない。父親とは幼なじみで今も飲み友だちでもあるのだが、一緒に飲んでいる途中「今日は息子に勉強ば教えてやらんといかんけん、お先に失礼」などと云って、座を立つような奴で、その点、私など足下にも及ばない(爆)、真面目な父親だ。

「あんた、息子に期待掛けすぎとったっちゃないと?」

「いやぁ、そげんこたなか、息子には将来自分の進路は好きなように決めて良いち、常々いいよったとに。強制やらしたこつはなか」

てな具合で、両親とも、また登校拒否に陥った息子本人にさえ、学校に行けなくなった原因がさっぱりつかめない様子だった。

実のところ、友人とは云え常日頃からの家族的つきあいと云うわけでもなく、問題が起こりはじめた頃から微に入り細に渡って知っているわけでもなかった。息子本人にも会ったことはあるかも?という程度。悩みは後からポツリポツリと聞いただけで、固有の原因など私にもわからない。

しかし、なんとなく「よい子」だからそうなるんだろうなと云うことは想像がついた。
よい子、賢い子は特に、いつも親を(周りを)よく見ている。悪いことをして叱られれば、そこで悟って次からは同じことをしない。ひとつの経験則を自分の判断で他の事例にも当てはめて発展する応用力も持っている。昔から云う「一を教えて十を知る」というタイプだ。

悪く云えばどこまでだったら大丈夫なのかいつも自分の物差しを作りながら生活しているものだ。半面、良いことをして褒められると、ますます同じように行動しようとする。親の喜ぶ顔が見たいわけだ。

誰だって叱られるより褒められた方が気持ちいいに決まっている。したがってこういう子は、知らず知らずのうちに「喜んで貰えること」に沿うように自分をあわせようとする。

実はここが問題だ。

その成長過程で、よい子、賢い子は親が喜ぶことを第一義に考えてしまう。褒められればますますそうする。そしていつしか、本来自分がやりたいこと、親がではなく、自分自身が楽しみたいことを見失う。

殺人事件はともかく、いじめなど特定の要素がない場合、不登校などの諸問題はおおかた、こういうことが原因だと思う。

まあ、私もどちらかというとよい子の部類だったからね(爆) それはよく解る。だからといって全ての子が当てはまってしまうわけではないが、統計資料を元にしているわけではないので、何とも云えないが、いじめなどの直接的原因を除けば、確実に不登校は増えていると思う。

何故か?親に時間がありすぎるからだね、きっと(笑)

まあ、そう云ってしまえばおしまいかも知れないが、良い意味で放ったらかしにすることは必要だと思う。お世話をしているアンビシャス広場とかでは、子育てでもっとも必要なことは親が「見守る」ことだと常々云っている私だが「見守る」のと「干渉」は違う。

・・・と、軽く書評をしたためるつもりが、だらだらとした話に(汗)

というわけで、この「尾木ママ」の本。さすがに大学の先生なので様々な観点から実に公平な見方で書かれている良書だと思う。この本の中に複数事例として上げられているのは、ここ数年間のセンセーショナルな殺人事件であり、いじめや不登校などの問題とまた違って、深刻さも、固有の原因も同じではない。

しかし、子育てについて私がずっと思っていたことは間違いではないんだなと思った。尾木先生は、まさに教育界にも影響力があるポジションにいらっしゃるだろうし、こういう先生には様々な角度から活躍を期待したいなと思う。

子どもを育てる環境は一人一人の親だけの力では解決できないことも多いからだ。大量にあぶれる子を作り出してしまう、今の就職難など政治でしか解決できない問題かも知れない。

しかし、子どもにとって親は唯一無二。どんな社会状況下であっても、子どもの幸せをこそ祈りたい。例え親が居なくなっても一人で生きていける力を身につけていって欲しい。

ひきこもりや不登校があったっていいじゃないか。死にさえしなければ。長い人生、挫折の一つや二つ経験したヤツのほうが絶対強いに決まってる。友人の子のうち、一人は今、紆余曲折を経て、決して親が薦めた訳じゃないけど、その親の家業を継ぐべく見習いをはじめたそうな。

頑張れ、若造!


「よい子」が人を殺す―なぜ「家庭内殺人」「無差別殺人」が続発するのか「よい子」が人を殺す―なぜ「家庭内殺人」「無差別殺人」が続発するのか
著者:尾木 直樹
青灯社(2008-08)
販売元:Amazon.co.jp
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