浅井の一本桜 久しぶりに浅井の一本桜を観に行った。浅井の桜は市の観光施策もあり最近とみに有名になって、花見のシーズンには近辺からたくさんの人々が見に来るようになった。

対岸には観桜のために斜面が整備され、カメラの放列が鈴なり状態。あまり広くはないが駐車場も整備、出店まで出ていて、地元の方による交通整理が忙しそうだ。

一本桜と云えば、熊本の一心行の桜が有名だが、この浅井の桜には思い出がある。つい最近亡くなられた樹木医「ドクトルどんげ:野口喜好」さんだ。樹木医という呼称も余りよく知られていなかった頃、筑後のご自宅へ取材に伺ったことがある。

野口さんは、この浅井の桜の他、地元の古木・大木を数多く診てこられた。浅井の桜での治療の手法などを詳しく説明を受けた。樹木に対する愛情は人一倍だが結構さばさばしたお人柄だった。

「浅井の桜の周りに、最近観光課が桜ば植えて観光名所にしようち、云いよる。いらんこったい、一本桜は一本だけやんけん、一本桜たい」

そう云っていたどんげさんだったが、最近のこの熱狂ぶりを見てどう思われるだろうか。

■EAST SIDE STREET
2000年3月号記事

浅井の一本桜

観光施策が功を奏しているというのもあるかも知れないが、最近はイベントに集まってくる人の数が尋常ではない。各地で盛んな花見はもちろん、もうすぐ始まる久留米つつじまつりにも大勢の人がやってくる。夏の筑後川花火大会などはあまりの混雑にとうとう警察からストップが掛かり、数年前から2ヶ所で分散発揚するようになった。

近頃のニュースじゃ、どうやら大型連休の分散化案が持ち上がり、試験的にもどこいらかで始まるらしい。それはどうかなと思うところもあるが、日本人ってどうしてこう、どっと移動するようになったのだろう。

車社会、交通機関の発達、情報のボーダレス化、さまざまに要因はあるのだろうが個人的にはあまり面白くない気がする。「不思議」が無くなれば世の中はきっと退屈になってしまうに違いない。


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●Ipponzakura in ASAI & The Tree Doctor DONGE 浅井の一本桜
・EAST SIDE STREET 2000年3月号記事


いつの頃からか人はワシのことを「浅井の一本桜」とよぶようになった。

浅井の一本桜2000 今居る山堤の見晴らしの良か土手に浅井の吉谷のじいさんに移してもろうたとが、昭和天皇の御大典の時じゃったから、今の歳はざっと百歳じゃ。

ここはたいそう居心地が良かった。ワシの兄弟が山ん中に居るが、たぶんワシの方が倍ぐらい、大きゅうなっとる。なんせ、水は豊富にあるし風通しが良かし・・・

浅井の人たちにゃあ、感謝しとる。ほれ、池に反射する光が、たいそう気持ちの良かけん、ワシはいっぱいに枝ば広ぐるとばってん、それに支えばしてくれたり、色々と気ば使こうてもろうとる。おかげでワシは毎年、綺麗な花ば咲かせて見せることが出来た。

しかしのう、ワシも寄る年波には勝てんでのう。ここん処、幹は腐敗してくるし、枝先は枯れてくるし、おまけにこないだ(平成3年)の台風に、一番背の高かった枝をぽっきり折られてしもうた。
ワシは自分じゃ動けんけんのう、どうしたものかと思いよったが、ワシを見に来とる人たちが心配してくれて、お医者さんば連れてきてくれた。

ドクトルどんげ 筑後の狐林んところに住んどる、「ドクトルどんげ」さんじゃ。どんげさんな、ワシの幹ん処の腐敗菌ば、綺麗に取ってくれて、あとが腐らんごと発泡ウレタンばきっちり詰めてくれた。ちょいと違和感はあるばってん、幹はこれで腐敗することはなくなった。
そうそう、台風で折られた枝ん処にも治療ばしてもろて、ここにゃあ、若芽ば残してくれとるけん、また何年かすると、高こう枝ば伸ばせるじゃろう。
そいから、ワシが根を張っとる土手の土ん中にあちこち、圧縮空気ば入れてくれて、おかげでワシも思いっきり根ば伸ばせるようになった。

いやあ、どんげさんと浅井の人にゃ、ほんなこつ感謝、感謝じゃ。 今年もまた、いっぱい花ば咲かせるけんの、みんなで見に来ておくれな。

おっと、ちょこっと苦言ば言わやんこつのあったとじゃった。

最近あちこちからいっぱい見に来てくれるのは、嬉しかとばってん、中にゃあ近所の植木屋さんの庭先から、すっぽり植木ば盗んでいく不届きな奴が居るごたる。そいから平気でごみを捨てていく奴等も居る。

せっかく、大事にしてくれとる浅井の人たちに、ワシはほんなこつ心苦しか。ワシば見に来て来れとる人たちは、花ば愛でようちゅう、優しか人間じゃろう?近所ん人たちに、嫌な思いばさせんごつ、よろしゅう頼んどくけんな。

ほな、今年も待っとるでな。



ドクトルどんげ ●樹木医・ドクトルどんげ
平成3年農水省が「ふるさとの木保全対策事業」の一環として国、県や市町村の天然記念物となっている巨樹、古木の保全や治療をおこなう公的資格を定めた。 「ドクトルどんげ」こと、野口喜好さんはこの第二期生の樹木医である。今年、63歳。

自在にインターネットを操り、自身でつくられたホームページを覗くとそこには、樹木に対する並々ならぬ思いが綴られている。
ふるさと筑後の大楠林、別名「狐林」の保全のための提言など、単なる樹木医としての守備範囲を超えた活躍をされている。


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